第4章 作られていく日常
【周助SIDE】
今朝はルネさんが起きてくる前に家を出た。
彼女、ちゃんと起きているだろうか?
少し心配だったが、部活上がりちょうど彼女の姿が窓越しに見えたので安心した。
「不二、今日は一緒に教室に行こう」
「いいよ、タカさん」
タカさんがそう言ってきたので教室まで二人で話しながら向かった。
教室につくと、いつも挨拶をしてくれる松野さんと比嘉さんが彼女と話していた。
確か、昨日も一緒にお昼を食べていたはずだ。
「昨日テニス部に見学に行ったの? あなたの事を見た子がいるんだけど・・・」
ふとその会話が聞こえた。
(昨日の事か・・・そういえば、来てくれた理由聞いてなかったな・・・)
そう思った時だった。
「うん、ちょっと手塚君を間近で見たくなっちゃって」
「え・・・」
”手塚”?
昨日部活を見に来たのは、他の女子のように手塚が目的だったから?
・・・何故か胸をわしづかみにされた気分になった。
その時、松野さんが僕に気づいた。
「おはよう不二くんっ!」
「ああ、おはよう」
松野さんと挨拶をするが、彼女はそれを黙ってみているだけだった。
(挨拶はしてくれないのか)
――ふとそう思った。
席に着くと、タカさんがまた話しかけてきた。
「彼女さ、もう学校に慣れたみたいだね。早いな・・・」
「彼女の事、随分気にしてるね」
「そ、そんなことはないよ! ただ・・・」
「ただ?」
彼はいつもの不安そうな顔を俯けて言葉を紡いだ。
「ただ、外国人だから日本で無事にやっていけるのかなって・・・」
「やっぱり心配してるんだ」
「へ、変な意味じゃないよ!」
「わかってるよ」
タカさんは顔を真っ赤にさせて言った。
結構珍しい。
確かに彼女は美人だと思う。
それだけの魅力もあるし、皆が騒ぐのも無理はない。
僕はそっと彼女の顔を見ようと振り返った。
彼女の薄い灰色の目と合った。
「・・・ッ・・・」
彼女の顔が少し赤くなったような気がした。
それが朝日に照らされてキラキラと輝いた。
彼女は慌てて目をそらした。
――僕は、まだ彼女の横顔から目をそらせないでいた。