第3章 テニス部
【周助SIDE】
いない・・・
てっきり竜崎先生と一緒にいるものと思っていたが、彼女の姿はそこになかった。
「先生」
「おお、不二か・・・どうした?」
「女子の見学者がいたって聞いたんですけど・・・」
「お前がそんなことを気にするとは思わなかったが・・・彼女なら、もう帰ったよ」
竜崎先生の言葉に、思わず呆気にとられる。
(姉さんからの愚痴を伝言されるかと思ったけど・・・そうじゃないみたいでよかった・・・)
だけど、彼女とは学校で何も話さなかった。
何か用があったのだろうと思ったけれど、そうではないのならなぜ来たんだろう・・・?
「不二先輩」
「え? …ああ、越前君」
後ろを振り向くと、生意気な後輩がそこに立っていた。
「片づけ、サボりっすか? 部長に怒られますよ?」
「そうだね・・・手塚に何か言われる前にやらなくちゃ」
くすりと笑ってから、彼に見つかる前に動こうとコートに向かおうとした時だった。
「…あの、不二先輩」
「ん?」
越前が呼び止めた。
彼はなんだか言いづらそうに少し迷っていたようだったが、ようやく口を開いた。
「さっき言っていた・・・転入生って、不二先輩の知り合いっすか?」
「クラスメイトだよ」
嘘ではない。
ただ、姉さんのせいで家に泊まらせるのは、なんだか誤解を招きそうだったので言わないでおいた。
「俺、あの人の事知ってるような気がするんすよね・・・」
「え?」
越前が彼女の事を?
あえて言うということは、今日この学校であったということではないだろう。
しかも、物覚えが悪い方の(テニス以外で)越前が、他人の事を知っているだなんて、珍しい。
「雑誌で見た気がしたんすけどね・・・ま、いっか」
彼はそう言って立ち去った。
何とも気になる台詞を残して。
(雑誌…?)
雑誌に載るだなんて、何かすごいことをしているのだろうか。
しかも、彼女は最近まで外国にいた身だ。
外国のニュースが日本にくるだなんて、よっぽどのことだと思う。
・・・あとで彼女に聞いてみよう。