第8章 ❇︎3月 「ごめんね 好きだよ」【スタミュ 鳳】
「頑張ってね、鳳が楽しくやれることを祈ってるよ」
「出来ると良いけど。君も…元気でね」
鳳と握手を交わす。
ゆっくりと離れていく彼の手に名残惜しさを感じた。
やろうと思えば、彼の腕を掴んで引き止めることもできたけど、どうしても腕は伸びない。
「それじゃあ」
何も言わずにうつむく私の頭をポンと叩いて彼は歩いていく。
その背中をじっと見つめた。
鳳。
今まで付き合ってくれてありがとう。
そして…あなたとの約束を守れなくてごめんね。
「ごめんね、好きだよ…樹」
だから。
「行かないで……!!」
最後だけ、ワガママ言わせて。
「やっと言ってくれた」
ふわりと体が包まれる。
鼻をくすぐるこの香りは、分からないはずがない。
いつもほんのり分かるけど、はっきり分かるまでに近づくことはなかった彼のもの。
「鳳…?」
「樹、でしょ?」
「どうして…」
「ごめんね、。全部嘘だったんだ」
「……へ?」
自体が飲み込めない私を抱きしめる腕は緩めないまま、鳳は本当のことを教えてくれた。
「君とした約束、俺の方が早々に守れなくなっちゃって。君がどれだけ俺のことが好きか試したかったんだ。お互い好きって言い合ったわけでもなかったし、不安に思って」
「不安…?」
「勝手なことして君を苦しめたことは悪いと思ってる、でも、俺は嬉しかったよ」
「何が?」
「君が悩んでいればそれだけ俺が愛されてるって分かるから」
「…意地悪なことするんだね、勝手な人」
「嫌いになった?」
「まさか…鳳の新しい一面が知れて嬉しい」
嘘を吐かれていたことは腹立たしいけど、それ以上に嬉しかったから怒りなんて湧かなかった。
自由が好きな鳳が、私を求めて私のそばにいることを望んだ。
これ以上に嬉しいことがあるだろうか。