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Various stories

第8章 ❇︎3月 「ごめんね 好きだよ」【スタミュ 鳳】




私が彼を求め始めていると気付いたのは、高校卒業間際。


「俺、海外に行こうと思うんだ」


鳳の唐突な決意を聞いたときだ。


嫌だ、行かないで。

そんな言葉が突発的に出そうになった。
慌てて堪えたものの、動悸と嫌な汗は止まらない。


「そ、うなんだ…頑張ってね」


反対されるなんて微塵も思っていないような瞳で私を見てくる彼を引きとめることなんて出来なくて。

心にもない言葉と笑顔を送るしか出来なかった。







そうして、時は今日。
鳳が旅立つ日に。



「来てくれてありがとう」

「来ないわけないでしょ…そういえば、柊くんはいないんだね」

「あいつはあいつで忙しいから。君が来てくれれば俺は良いよ」


鳳の弟、柊翼とは少しだけあって話をしたことがある。
鳳に誘われて遊びに行った綾凪祭で紹介されたのだ。

とても真面目で、且つミュージカルを愛している。

そんな印象を受けた彼はどうやら見送りには来ていないらしい。


今、私と彼だけなのだと意識すると、少し頬が緩んだ。

今日で、こうしていられるのも最後だから。


加えてそんな期待させるようなこと言われたら、胸が高まるどころじゃすまない。



でも、それはまやかしだと気付いている。





初めは鳳と付き合うことで有頂天となっていた私だったが、その後彼と過ごすにつれて、ある不安も出てきていた。


鳳は本当に私が好きなのだろうか。


付き合おうと言われたけれど、彼に好きだと言われたことは1度もない。
そのことが私に影を刺す。

互いを束縛しないと決めたのも、それ故なんじゃないか。



そう思ったけど、最初はそれでも良かった。
私は鳳が好きだったし、特別な立ち位置になることに変わりはなかったから。


でも、それじゃもう満足できない。

鳳に想われたい、抱きしめられたい。

そんな願望が日に日に強くなる。


鳳の留学を聞いて、自分の半身がもがれたような気がした。
縋り付いて、泣いて止めたかった。


でも、それは彼の嫌う束縛。

だなら、私がそうしてしまうほどに彼に魅了されたのだとわかったとき、決めたのだ。





もうこれで終わりにしようと。
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