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Various stories

第5章 ❇︎2月 溶けかけの雪だるま【薄桜鬼 沖田】












しかし、それ以降彼は私の目の前に現れなかった。


















「…どうしていらっしゃるのでしょう」


沖田さん。
新選組はいつも多忙だ、しかし彼はいつだって合間を縫って会いに来てくれたのに。

あれから何度も朝と夜を迎え、気付けば辺り一面の白の中に、ちらほらと緑が見え始める時期となった。


こっそりと周囲の雪で補強をしてきた2人の雪だるまも、そろそろ限界を迎える。



「…沖田さん…っ!」


彼に借りたままの羽織は自分で洗って綺麗に畳んだ。
彼の温もりなど残っていない無機質なそれに、縋りたい思いをぐっとこらえる。


会いたい、早く。


「、お客様ですよ」

「っ!!どなたです?」

「新選組の方のようだけど…」

「す、すぐお通しして下さい!!」


そんな願いを神が聞いてくれたようだ。
母の言葉に、自然と口角が上がる。

良かった、彼は私との約束を果たしてくれたのだ。

まだこの雪だるまが溶けてしまう前に––––––。













「……え?」













彼の元に行く前に、何気なく振り返った庭。

そこにちょこんと鎮座している雪だるまの胴体部分が、少し溶けてずるりと傾いていたのが目に入る。


「そんな…どうして」


さっきまで、ついさっきまで完成させた当時と変わらなかったのに。

高揚していた気分が一気に冷めていく。
代わりに恐ろしい不安が私を襲った。


何か、何か嫌なことが起きている気がする。





「…だな」


後ろからかけられた声にゆっくりと振り向く。

思った通り、そこにいたのは沖田さんではなかった。


「…土方さん、ですね?」

「…そうだ」

「沖田さんに…沖田さんに何かあったのですか?」



胴体部分は沖田さんが作った場所。
そこが溶けたことが、どうしようもなく私を震わせる。




「総司は…療養のために京を去った。もう、お前には会えない」



庭の方で、雪だるまが溶けた音がした気がした。
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