第5章 ❇︎2月 溶けかけの雪だるま【薄桜鬼 沖田】
事情を説明し終えて土方さんが帰った後も、しばらく私はぼんやりと庭を眺めていた。
これが全て夢であればいいのに。
そんな叶いもしない願いを抱きながら。
今まで私の願いをどんな形であれ叶えてくれたあの人はここにいない。
それでも、願っていればどこからか彼が出てくるんじゃないかと思ってしまう。
土方さんが言ったことは全て嘘で、私を驚かせようと思っていたと笑ってくれるんじゃないかなんて。
「…あるわけないのに」
沖田さんの病は、私のものよりずっと大変なものだった。
そんな人と雪で遊び、あまつさえ寒空の下羽織を借りて彼を薄着にしてしまったことが悔しくて仕方ない。
今までだって遊ばなかったのだから我慢すればとか、自宅だったのだから自分の防寒ぐらい自分で出来たはずだとか。
土方さんは、もともと絶対安静だったのを遊び歩いていたのはあいつなのだから気にすることはないと言ってくれたが、それでも到底自分を許せそうになかった。
「沖田さん、どうか…」
生きて下さい。
激しい自己嫌悪に陥っても、彼は帰ってこない。
ならば私に出来るのはひたすらに祈ることだけだ。
この雪だるまが生きている限り、約束は続くのだから。
あの人が約束を違えたことなんてなかった。
だから今回も、ぎりぎりであったとしても来てくれる。
そう信じて。
沖田さんが亡くなったという知らせを私が受け取ったのは、雪だるまが完全に溶け切った穏やかな春の日のことだった。