第5章 ❇︎2月 溶けかけの雪だるま【薄桜鬼 沖田】
「わぁっ…!!」
「やぁ、お帰り」
沖田さんが重ねてくれていた、雪だるまがいた。
私の歪な雪玉も、彼が手直ししてくれたのだろう。
2つ重なっていても、違和感がなかった。
「凄いです、素敵ですね…雪だるま」
「ちょっと、まだ完成じゃないからね。顔を作らないといけないんだから」
「あ、そ、そうですね」
この程度で喜んでしまって恥ずかしい。
顔を覆って俯く私の頭を軽く叩くと、彼は私の持ってきたものからいくつか選んで手に持った。
パーツの場所や雪だるまにさせたい表情を彼と2人で話し合いながら、1つ1つ顔を作っていく。
表情は笑顔にした。
今日この時、きっと私も沖田さんも笑顔でしかいなかったと思うから。
「出来ました!」
ついに2人で作った雪だるまが完成した。
きっと出来栄えで言えば、子供達が作るものと大して変わらないのだろうそれは、私にとっては物凄いものに見える。
達成感に満ち溢れた私の後ろで、縁側に腰掛けながら沖田さんはそんな私を見つめていた。
「どうかなさいましたか、沖田さん」
「いや…さっきさ、見るだけの存在って言ってたでしょ、ちゃん」
「はい」
「それが…僕にとっては君だったんだなぁって思って」
「……私、ですか?」
沖田さんの言葉の意味がよく分からずに首を傾げた私は、彼の促しに従って隣に座る。
彼はどこかぼんやりと遠くを見つめていたかと思うと、ふと我が家を囲っている塀の一点を指差した。
「初めて君を見たのはね、あそこからなんだよ。見廻りしてたらたまたま塀の向こうで小鳥に話しかけてる君を見つけた」
「……」
「その時の君は凄く純粋に見えて、僕なんか触れちゃいけない存在だと思った。…まさか、その後こうして君と知り合うとは思わなかったけど」
どうして突然そんな話をしたのだろう。
彼の意図は推測できなかったけど、話している彼がやけに寂しそうに見えて、私はそっと彼の手を握った。