第5章 ❇︎2月 溶けかけの雪だるま【薄桜鬼 沖田】
ぽかんとした私の手を引いて、沖田さんは庭へ降り立つ。
「冷えるだろうから、これでも羽織っておいてね」
そう言って、彼の羽織を私に掛けながら。
「ま、待って下さい、沖田さん」
「ん?どうしたの?」
「遊ぶって何をするのですか?私、こういったものは何も…」
「良いの良いの、そんなに考えなくて。君に負担の少ないやつにするからさ、ね?」
おたおたとする私をおかしそうに見つめると、彼は積もっている雪をその手にすくうと、私に差し出した。
触れてごらん、とでも言うように。
「…っ、冷たい…!」
「そりゃあ、雪だからね。触るのも初めて?」
「はい。ずっと…見るだけの存在でした」
体が冷えるからと、雪が降った日は窓を開けることさえ許されなかった。
どれだけ手を伸ばしても触れられなかったあの雪が、今私の手の中にある。
それはふわふわしていて、でも力を入れるとさらさらと零れ落ちる、初めての感触を持っていた。
「見るだけの存在…か」
「?…どうかなさいましたか?」
「…ううん、何でもない。ちゃん、一緒に雪だるま作ろうよ」
「雪だるま…ですか?」
この雪を固めて作るという雪だるま。
噂で聞いたりしたものは子供くらいの大きさらしいが、そんなものこの庭の雪で作れるのだろうか。
「そんなに大きくなくても良いでしょ。君が部屋で寝ている時も中から見えるくらいの大きさで十分だよ」
そんな疑問を彼はくすりと笑い飛ばす。
手本を見せるようにゆっくりと私の前で雪玉を転がす沖田さんは、器用にその玉を大きくして見せた。
「わぁ…っ、凄いです!」
「このくらい簡単だよ、君もやってごらんよ」
まずは自分でそこそこの大きさにまで雪玉を作って、それを地面で転がしながら雪を付け足していく。
沖田さんは軽々とこなしていた作業は、いざやってみると難しい。
彼に手伝ってもらいながら何とか彼の作った玉に見合う大きさになったそれは、えらく歪だった。
「うぅ…ごめんなさい」
「謝ることないよ、形くらいいくらでも直せるんだし」
それより、木の枝とか探しておいで。
そう沖田さんに頼まれた私は、庭の中をうろちょろと歩き回る。
これで顔を作るのだろうな。
見つけてきた枝やらを抱えて彼のいる場所まで戻ると、そこには。