第5章 ❇︎2月 溶けかけの雪だるま【薄桜鬼 沖田】
京に冬が訪れた。
夜のうちにはらはらと降ったのであろう雪たちが、朝には地を覆って世界を白く染める。
「寒いですね…」
縁側に座って美しい銀世界を見つめていると、不意に新たな色が加わった。
「おはよう、調子はどう?ちゃん」
「おはようございます、沖田さん」
薄い藍色、浅葱色と呼ばれるその色を基調とした羽織に身を包んだ男の人。
彼は沖田総司。
新選組の、1番組組長だった。
「今日は朝の見廻りなのですね」
「そうだよ。雪が降ってて驚いたなぁ」
彼と知り合いになった経緯はそんなに長くない。
幼い頃から体が丈夫ではなかった私がこの家から出た回数は両手で数えて足りるくらいで、その数少ない外出の時に倒れた私を助けてくれたのが彼だった。
それ以降見廻りの度に顔を見に来てくれる沖田さん。
そんな彼に、私は言えない淡い想いを抱いていた。
「町も真っ白いのですか?」
「うん。結構積もったから子供達が喜んじゃってさ、朝から遊んでたよ」
「そうですか…」
沖田さんの言葉に、心が高鳴る。
賑やかな街の様子を想像するだけで、昂ぶってくるのが自分でも分かった。
行ってみたい。
このすぐに消えてしまう儚い雪で、子供達がどうやって遊んでいるのか見てみたい。
叶わぬ願いと知っていても、そう願わずにはいられなかった。
「…ちゃん、遊ぼうか」
「え?」
「ここの庭にもたくさん雪が積もってるしさ。ね、遊ぼう」
そんな私の心を見透かしたように、彼は提案をしてきた。