第3章 黒尾の誕生日
「…クロさん?」
「……ん」
「こんなところで寝てると、風邪、引いちゃいますよ?」
「ん…んぅ」
「てーつー」
まだ夢のなかに居るクロさんには、わたしの声はきっと届いていない。
座椅子に座ったクロさんを起こさないようにゆっくりとした足取りで、毛布を彼のベッドまで取りに行き、そっとかけてあげる。
そしてそのまま彼の隣に腰かけると、机の上に、可愛らしい洋菓子屋さんの箱が置いてあるのが目に入った。
「その洋菓子、 すいれんにやる」 なんて声があたまをよぎった。クロさんならやりそう。
わたしの帰りをまだかまだかと、うきうきしている彼の姿があたまに浮かべると、頬が緩んだ。
でも、それと同時に待たせてしまったことへの申し訳なさも募る。ごめんね、と口が動いた。
クロさんの柔らかい黒をそっと撫でる。ごめんなさい、クロさん。それと、ありがとうね。
クロさんの髪を撫でながら、壁に掛けられている時計に目をうつすと、針はまだ閉じていない。
あの針たちがくっついたら、クロさんを起こして、おめでとうって言ってあげよう。それと、ちょっとしたものだけれど、プレゼントもある。
携帯にも、たくさんのクロさんへのおめでとうが届くね。研磨くん、夜久さん、木兎さん。ほかにもいるかな。クロさん、愛されてるな、しあわせだな。
「クロさん、お誕生日おめでとう」
わたしも、クロさんのしあわせのもとでありますように。