第1章 赤葦と年越し【微裏】
「あげないけど」
「っぎゃあああああ けいくんいつのまに起きてたの!」
「 すいれんに指触られて起きた」
あああ、京くん心臓にわるいよ。
「みかん、ほしいの?」
そういった京くんのきれいな指には みかんが摘まれている。
(ああ みかんになって挟まれたい)
ん、と京くん。
口もとに差し出されたみかん。(こ、これはたべろと……)
「い、ただきます……」
「どうぞ」
なんだか 恥ずかしくて 京くんのゆびに唇が当たらないようにみかんを直接に口にもらった。
下をむいて何回か咀嚼。
(あ、おいしい……、さすがブランドみかんさん……!)
おいしいね 京くん!と伝えようと 京くんを見たら、
京くんは頬杖をついて、よかったね、と言って微笑んでくれた。
そのあともうひとつみかんを わたしにくれた。
京くんは、なにがたのしいのか、ずっとわたしを見てた。
けいくんにノーメイクの顔を見られるのは まだ抵抗が……
「さいごの ひとーつ」
「わー、京くんどうぞ」
「んー」
「ん?たべないの、京くん」
「いや、たべる」
「うん」
さいごのひとつのみかんが、京くんの唇に吸い込まれていく。
わたしをめちゃくちゃにする京くんのゆびが、わたしをとろとろに溶かす京くんの唇に向かっていく。
やけにスローモーションに見えた、きれい、京くんのゆびも唇も、きれい、すき。
「 すいれん、なに?」
「え」
「いやいや!なんにもだよ京くん」
ただ、京くんのゆびがすきだな とぼそりとつぶやいた。
京くんは みかんを口のなかにぽいと入れたあと、わたしを腕のなかに入れた。
京くんのにおいがする、きもちがいい、落ち着くにおい。
京くんのやさしいにおい。
「 すいれん、いいにおいがする」
「けーくんも………」
「髪、乾かそうか、風邪ひくから」
「えー」
「なんで渋るの」
「けいくんのにおいを嗅いでたい」
「すいれんって変態?」
「京くんのほうが変態だ」
「そう?」
「そうだよ」
ふぅん、と京くんが言う。
京くんの唇がわたしの頬に降ってくる。
ほら。
ちゅ、ちゅっ、とじょうずに 音をたてて わたしを溶かしはじめる。
リップ音、わたしはじょうずに鳴らせない。
前に京くんの唇で練習したときは、なにやってるの、 すいれん、と言われて、そのまま食べられた。