第1章 赤葦と年越し【微裏】
「けーくん、おふろどうぞー」
と呼んでみるけれど、いつもの気だるそうな声は聞こえてこなかった。
濡れた髪をタオルで拭きながら居間まで行くと、
冬場の天敵、おこたに入ったまま、動かない京くんを見つけた。
京くん、ともう一度そっと呼ぶけれど、返ってくるのは かすかな寝息だけ。
京くん、風邪引いちゃうよ、
京くん、みかん食べ終わってないよ?
京くん、京くん。
京くんの肩を揺らしても、ゆめのなかみたいだ。
みかん、食べちゃおうかなあ。
みかんの近くにある、京くんの細くて、でも骨ばった指先に目がいってしまう。ああ、きれいだなあ。
京くんは、わたしを傷つけないように、ぜったい爪を整えてくれてる。
そんな京くんのゆびに、わたしは一体どれだけ翻弄されてきたんだろう。
京くんの手に自分のそれを重ねて、ゆびをなぞった。
ひとさしゆびのつめにはみかんの白い繊維がはさまってて、くすりと笑ってしまった。
京くん、そんな眠かったのかなあ。
テレビは、年末だから、といって大騒ぎしてるけど。
みかん、食べちゃお。
「いただきます」