第7章 赤葦と木兎と帰り道
「けいくん、車なの?」
「うん」
けいくんにお箸を渡すと、
けいくんは、ぱき、と行儀よく机のしたで割ってから、わたしの小皿から だし巻きたまごを勝手にとっていった。
わたし うげ、って顔をしちゃったのか、
けいくんは、にやっとしてる。
でも、こんなことやってくるっていう遠慮がないのは、きっといいことで特別、なんだろうな。
胸がきゅんってする、うれしい。
「うわあああああああああ羨ましい赤葦殴りたい」
「けいくんのお顔以外でおねがいします、大事なお顔なので」
「いやどこも殴らないでください」
ノンアルのビールが出てきたところで、けいくんと木兎さんとで お酒をかちんと合わせる。
「ところで けいくん、どうしてわたしたちがここでのんでるってわかったの?」
「木兎さんが 教えてくれた」
「えっ」
「〜♪」
「「ごまかせませんよ木兎さん」」
「いや、つい口がすべってしまって」
「うん」
「 いや、だって赤葦うるさいんだもん」
「?」
「 すいれんちゃんを早く返せって メッセージの文面からビンビン伝わるもん だから」
けいくんが?
「……けいくん?」
「………っ 」
けいくんは ノンアルなのに耳が赤かった。向かいに座ってるけれど、木兎さんのほうを向いてるから、よく見えない。
早くけいくんに抱きつきたい、大きな肩口に顔をうずめて、けいくんになでなでされたい。その繊細な手で。
けいくんの姿や、手を見てそんなことを思いながら、昔話や、いまの仕事の話に花を咲かせた。
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「ばいばい、木兎さん、ありがとねえ〜」
「おう、 すいれんちゃん、こちらこそありがとなー」
「赤葦も年中多忙なとこにいるからって死ぬなよ!!!」
「死にませんよ」
駅から駐車場までのすこしの距離。
おいしかったね、とけいくんに向かって伝えたら、そうだね、と 口許を緩めて答えた。
「さむいね、けいくん」
「うん」
手を握られて、そのまま、けいくんのコートのポケットのなかにしゅるんと 収まった。ポケットの内側で 指が絡まる。
ふたりじゃないと、できなかったこと。
こういうけいくんのさりげないエスコートに、また きゅんとした。好き。
「ポケット、あったかいね」
「カイロ入ってるからね」
「あ、ほんとだー」