Run.run and fly. ーハイキュー!!ー
第3章 盛岡梅誠高等学校
大きな蕪の法則では鉄格子は外れない。本当言えば蕪だって抜けない。
それに気付いているのは青根一人だが、彼は突っ込みにおよそ縁遠い。
仕様がない。
青根はやおら日向の肩に手をかけて軽く引き、キョトンとした彼を傍らに退けた。京介の脇に手を差し入れて捻挫した足を気遣いながら慎重に持ち上げ、西谷の背中を指でトンと突く。
「ンあ?」
振り向いた西谷へ下るよう手振りし、鉄格子に目を走らせる。
四隅の錆びたボルトを見止めると、青根は草の根に紛れていた大きな石をとって今一度三人を振り返り、改めて目顔で下るように促す。
何となく何が起こるか察した三人は、ザザッと青根から距離をとった。
青根の長い手が石を構えて振り上げられた。
「うぅわ、今ガヅンって言った!ガヅンってなった!かンわいそーッ、あら痛いよ、痛い!」
二口のデカイ声が体育館にビンと響く。
「わ、わりィ!大丈夫か、アンタ?」
鎌先の肘が梅誠の野村に入った。野村は左耳を押さえてよろめきながら掌を押し出す。
「いや、大事ない。気にしないでくれ」
目をしばしばさせて無理に笑った野村に、澤村から目配せされた谷地が一瞬きょとんとした後、あ、と、頷いて駆け寄った。
「大丈夫ですか?見せて下さい」
左耳を押さえた手に谷地が触れた瞬間、野村の仏頂面が熟れすぎたトマトみたように真っ赤になる。
「ひッ」
突然全開で赤くなった野村に、谷地が怯えて小さく飛び下がった。
「ああ、気にしてやんなよ。野村さんは女ン子に触っちゃうとすぐそうなんの。深窓の令息だからよ」
隣でボンとボールを突いて、石川が何という事なく谷地へ告げる。
「特にアンタみたように可愛いコ相手じゃ一発だ。悪ィけど知らねえ顔してやってくれ」
「ぅえ、えぇ、あ、は、はいいィ!!!」
サラッと褒められて今度は谷地が赤くなる。それを見て石川はニカッと笑った。
「ハハ、ホント可愛いな、アンタ。悪ィけど野村さんはその通り逆上せ易いんだ。ここの氷使っちゃ他の分がなくなるから、保健室に連れてってやってくれ。先生はいねえけど、鍵は女子部のヤツが持ってるから。頼ぶはッ」
「テメエ、仲間だとばっかり思ってたら何イケてる男子臭匂わせかましてんだ、コラ!うちのマネージャーを素敵に振り回してんじゃねえぞ、ああ!?」