第1章 神の手と称される者
「はい。全くありません」
「え、ほんと?じゃあ元の専門は?どこの科に居たの?」
「元々は内科に居ました」
「内科って……そりゃまたどうして救命なんかに。
まさか小児科医なんて言わないよね?」
「普通の内科医です。
どうしてって聞かれても……なんていうか。
ヘリって男の憧れじゃないですか!颯爽と現れて治療をしていくところなんか特に!」
これはきっとテレビかドラマに影響されているな。
それに神の手の次は憧れね。
益々神那ちゃんに嫌われそう。
「じゃあ外科は研修医時代にちょこっとかじっただけ?
それ以外の外科の経験ないの?」
研修医の時は2週間程度それぞれの科を体験し、自分に合ったものを選択する。
その仕事内容や自分の向き、不向きを前もって知る為の大事な期間だ。
合わないからといって早々に選考を変えられるものでもない。
「医学書は熟読してます!」
「あ、そう……」
これは神那ちゃんの1番苦手なタイプかもしれない。
知識だけの頭でっかち。
現場での経験はなく医学書や論文だけの、知識をつけて出来る気になっている人。
「それじゃダメなんですか?」
「ダメとは言ってないさ。
でも救命はその場の判断力と経験に左右されることが多いから、知識に引っ張られないように気をつけてね。
無事卒業出来ると良いね……何年かかっても」
「え?それってどう言う……」
Piiii……。
「ごめんよ、電話だ。もしもし?
……了解、すぐに行くよ」
「どうかなさったんですか?急変ですか?」
「いや、ヘリが帰って来たんだよ。
うちで治療するみたいだから見学だけでもどう?」
「ぜひ!」
血を見て倒れさえしてくれなければ良い。
それ以外は何も望まないから。
飲み終わったコーヒーのカップをゴミ箱に捨て、処置室へ急ぐ。