第1章 神の手と称される者
「水原ちゃん、神那ちゃん(指導医)居ないから今の時間暇だよね?」
「はい、まぁ……。
暇と言われれば暇ですけど」
「じゃあさ、ちょっと僕に付き合ってよ。
僕も君のことを任されてるしね」
主に面倒を見るのは指導医である神那ちゃんの役目。
でも神那ちゃんは人に教えるタイプの人じゃないし言葉足らずで誤解されやすいから、そのフォローをするのが僕の役目。
僕としても医者の中でも1番話が合うのが神那ちゃんだからね。
彼女の仕事の邪魔になるものは出来るだけ排除してあげたい。
より新しいことを学ぼうとする探究心、正確無比な技術、動揺しない冷静さ。
僕の理想とするものを全て持っていた。
「分かりました」
水原ちゃんをあっさり口説いて談話室へと向かう。
談話室はステーションの隣にある医師達が休憩する場所のようなところ。
ここでお昼を食べたりすることもある。
食堂もあるけど、食堂でゆっくり食べられた試しがないし、何かあった時にすぐに動けるのはこの場所だ。
だから僕や神那ちゃんは比較的ここで休憩を取ることが多い。
「水原ちゃんってどこの病院から来たんだっけ?
確か他の病院で勤務経験あったよね?ERの経験もある?」
愚問かもしれないけど。
【ER】
全ての救急患者を24時間体制で受け入れ、診断及び初期治療を行うシステム。
談話室に設置されている自販機で買ったコーヒーを啜りながら尋ねる。
もちろん砂糖多めで。
コーヒーは香りが好きなんだよね、味は苦いから砂糖なしじゃ飲めないけど。
「ないです」
「えっ、ないの?本当に?」
思っていた答えと違い、マヌケな声が出た。
フライトドクターに志願する医者はER経験者がほとんどだから、てっきり経験あるのかと思ってた。