第7章 戸惑う心
「ヘリには急遽藤代にも飛んで貰う。
RCC、アルブミン、ビカーボン。
全て20セット用意して」
荷物が多ければその分重くなり移動に大変だが今は致し方ない。
現状が分からない今は念を入れておいた方が良いに決まっている。
現場に着いてから足りなかったでは済まされない。
往復するにしてもその時間が命取りになることもある。
「はいっ、すぐに用意します!」
「念の為次にヘリが戻って来た時にも詰めるようにもう10セットは必ず用意しておいて」
「分かりました!」
処置室全体に聞こえるよう、いつもより声を上げる。
聞こえなかった、聞き間違えたでは済まされない。
必要な情報を簡潔に、正確に伝える必要がある。
【アルブミン】
血清中に多く含まれるタンパク質の1つ。
【ビカーボン】
初期輸液に使うもの。
【輸液】
急激に喪失した血液の置換のこと。
大量出血などで循環血漿(ケッショウ)が減少すると有効な循環が保てなくなる(出血性ショック)為、血漿の不足分を一時的に置換する目的で行われる。
「あのっ、俺も行きたいですっ」
「無理」
腕のない者、覚悟のない者は連れて行けない。
足手まといは必要ない。
例え連れて行くとしても時と場合があるのだ。
こんな緊急時に本当の新人を連れて行ける程の余裕は今日の現場にはない。
最も、余裕のある現場なんて存在しないのだけれど。
救命の現場に、悠長に教えながら処置する時間はない。
「水原、今回は堪忍な?ホンマにアカンやつやねん。
高速道路やし規模も分からへん。
教えてる時間はないんよ」
機材を受け取るなり走って行ってしまう2人。
俺だけがポツンとその場に残された。
小さくなっていく2人の背中を、俺はただただ見つめていることしか出来ない。
無力だ。
「さて、私達は受け入れ準備しましょう?
神崎先生がいらっしゃらない分大変よ?」
2人が去ったあと恵先生が仕切った。