第1章 神の手と称される者
ヘリは一報を受けてから離陸するまでの時間は平均して約3分。
離陸が遅れればそれだけ助かる命も少なくなる。
10分遅れれば1つの命が失われると言われている。
救命の現場は常に時間との戦いだ。
処置開始までの時間がその人の術後を左右する。
だから我々フライトドクターは走ってヘリまで向かう。
1分を、1秒を、短縮する為に。
「行ってらっしゃい、神那ちゃん。
ホントは廊下走っちゃダメなんだけどね〜」
余裕で手を振る神崎。
それもその筈、今日のヘリ担は私だから。
神崎は今日はICU担当。
救命は担当するポジションはローテンションで代わるシステムを導入している。
医者の負担を減らす為の工夫だ。
「あっ、俺も行きますっ」
「要らない、邪魔だから」
使えない人間が現場に居ても足手まといなだけ。
救命医療に必要なのは腕と経験、才能、速さだから。
判断力に欠ける医者は必要ない。
「ですがっ……」
「ムダだよ、水原ちゃん。
神那ちゃんは誰が言っても止まらない。
患者に対して真っ直ぐ向き合う子なんだよ。
それにもう薄々分かってると思うけど神那ちゃんは不合理なことを嫌うからね、途中で足を止められると怒られるよ」
神那ちゃんは無駄なことをとことん嫌う。
奇跡を信じることも、運命を感じることも、神にすがろうとすることさえも。
神那ちゃんにとっては全て無駄な行為。
「話には聞いてましたけど……」
「彼女から教えて貰うのは難しいだろうけど学べることはたくさんあるから。頑張ってね」
教えることはしないけど見て学ぶことなら出来る。
教えて貰う、じゃなくて見て学ぶ。
技術を盗むこと。それが神那ちゃんが重きを置いていることだ。
*****
病室からそのままヘリポートへ向かい、乗り込む。
ヘリは我々が乗りやすいように両方のドアを開けてある。
右側から乗るのはフライトドクター、左側から乗るのはフライトナース。
ヘリには操縦席にパイロットと整備士、後ろにドクターとナースの計4人が乗っている。
右側の席、つまりパイロットの後ろの席にはフライトドクターが。
左側の席、整備士の後ろの席にはフライトナースが乗っている。
ヘリが離陸すると消防に詳しい情報が入っているかどうかを無線で確認する。