第6章 初めての…
「それを青島さんが引き抜いたって訳ね」
「え、青島部長がですか?」
「うん、そうだよ。意外かな?
当時教授だった青島さんにドクターヘリ立ち上げの話が来て、それで青島さんが医局に居た僕ら2人を引き抜いたの」
自らは決してヘリに乗らず我々に全て任せた。
青島は基本ヘリについてノータッチだった。
何事にも口出しせず任せる。
無責任に捉えられてしまう場合もあるけど、それは私にとってやりやすい、心地良い環境だ。
「そこから僕らのフライトドクターとしての日々が始まったの。
最初はとにかく大変だったさ。
立ち上げたは良いけど本当に初めての取り組みでマニュアルなんてものはないし、自分の専門外の患者は多いし現場のかってが分からないし。
あの時は全部が全部手探り状態でね。
どの機材を持って行くか、連絡はどう受け取るか、またそれをどう伝えるか。
消防やレスキュー、救急隊員にドクターヘリについて説明したり。
あの時はがむしゃらだったなぁ」
当時を思い出し苦い笑みを浮かべる神崎。
出動手段から、連絡手段、搬送手順に至るまで全てゼロから作り上げた。
形に沿って物事を進めるよりも、ゼロから手探りで進めていく方が遥かに大変だ。
「神那先生も必死だったんですか?」
「まさか。
受け取った情報から起こり得る全ての可能性を考慮し、機材を選ぶのには骨を折らなかった」
どんな災害、事故かさえ分かれば自ずとどういった患者が増えるか予測出来る。
起こりうる可能性を予測するのは、現場に居る医者にはなくてはならない能力。