第5章 機械と呼ばれる理由
「水原ちゃんさ、神那ちゃんの持論知ってる?
どっかで聞いたことあるかな?」
雑誌やマンガ類が散乱している神崎の机の上に1点だけ片づいている場所があった。
そこに置いてある、ある物を見つめながら話す。
それはもう愛おしそうに目を細めながら。
「いえ、聞いたことないと思います」
「どんなに簡単な技術でも練習せずに習得することは出来ない。
逆に言えばどんなに難しい技術でも繰り返し練習すれば習得することが出来る。
それが実力であり経験にも繋がる。
初めて話した時、神那ちゃんは僕にそう言ったのさ。
まるで僕の考えを否定するようにね」
神那は大事、という表し方を使う。
「神崎先生の考えですか?」
「うん、そう。
外科医は経験と才能が全て、それが僕の持論。
才能と実力は違う、実力は努力で磨くことが出来る。
でも才能は努力では決して手に入らない
自分で言うのも恥ずかしいけど、神那ちゃんは完全努力型、僕は才能型」
冷たい神崎の言葉が部屋に木霊した。
お互いに合っているのは経験と言う言葉だけ。
それ以外はまるで反対だった。
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ。
別に考え方が違うからってギスギスする程僕らはこどもじゃないし、お互いのことは尊敬してるの。
神那ちゃんとは考え方は違っても志は同じ。
それで言い合いになることもあったけどもう済んだことだから。
互いの考えは理解したの」
その為のコレだからね。
神那ちゃんも可愛いとこがあるんだから。
クスリと笑ってソレを突く。