第5章 機械と呼ばれる理由
「器用さってやっぱり必要なんですね。どこへ行っても」
深い溜め息と共に吐き出す。
あ、自分が不器用なのは一応自覚してたんだ。
「勿論さ。
外科医は1番にならなきゃ意味がないの。
2番、3番の医者に誰が命預けたいかな?
そこそこの腕の医者になんて、僕なら死んでもなりたくない」
「そ。それは確かにそうですけど……。
でも本当に腕だけなんでしょうか?」
腕ではなく純粋に医者の人柄を見る人も居るのではないか。
人柄を見て、この人なら自分の命を預けても良いと思える医者を選ぶんじゃないか。
若い頃はそう考える人も少なくなかったけど、結局は医者の腕だ。
腕がなければそもそもオペも出来ないし、この世界で生き抜いていけない。
「うーん……それは患者にもよるけど大概は皆腕じゃない?
高いお金を払って自分の命を預けるなら、失敗する保証は出来るだけ少ない方が良いでしょ。
手術にはより高い安心感を求める。
1番腕が良いのなら失敗する訳がない、ってね。
僕ら外科医は成功して当たり前、失敗したら恨まれる。そんな世界なの」
(シビアなんですね……」
改めて知る救命の現状に目を背けたくなる。
「医者にとってはシビアだけど当然のことだよ。
人の命を扱う世界だからね、外科医は特に。
多くの外科医はその失敗を恐れ、重圧に耐えかねて逃げ出すんだ。
かつての青島さんもそうだったように。
外科医の現状を知る者はそうならない為に外科から遠ざかる。
自分の身よりも大事なものなんてないからね。
だから常に人手不足って訳さ、外科医や救命はね」
過酷な労働環境に耐え切れず辞めて行く者も少なくない。
患者を助ける前に、医者が憔悴してしまっては本末転倒だ。
それにちょっと態度が悪かっただけですぐに訴えてくる患者さんも居る。
外科とは、救命とはそういう世界なのだ。