第4章 現実
「腹腔内出血?その患者腕を挟まれたんじゃなかった?」
確か消防はそう言っていた筈。
書類を進める手を止め、会話に集中する。
『あ、ごめん。説明省いてた。
そっちはもう終わって原口ちゃんにヘリで戻って貰ってる。
急変しそうもないしね。
上腕まで巻き込まれてて呼吸が弱まってたから切断した。
救出まで時間がかかるみたいだったしね。
現場でもう1人患者が増えただけだよ』
なんの抑揚もなく切断と告げる。
現場で切断することや患者が増えること。
そんなことには慌てない。
予期せぬことが起こる、それが現場だから。
原口とは新人のフライトナースだ。
まだ至らないところも多々あるけど、積極的に質問したりと貪欲に知識を吸収していく姿勢がある。
ヘリが戻る時はヘリから病院に向けて患者情報を知らせる。
もう離陸しているのなら詳細は届いている筈。
処置室へ向かいながら会話を続ける。
「TAE出来る?
動脈にカテーテルを挿入して出血源の動脈を閉塞させる方法。
現状それが1番適正だと思うけど、厳しそうなら開胸して出血箇所をクランプ。
処置が終わり次第すぐ搬送して。
私が引き継ぐから」
【クランプ】
出血してしまった血管を器具を用いて挟み、血管を遮ること。
【TAE】
緊急経カテーテル動脈塞栓術のこと。
腹腔内出血などの止血方法の1つで手術的操作による止血ではなく経皮的に動脈にカテーテルを挿入し、出血源となっている動脈を閉塞させる方法。
『ありがとう、出来るだけ急ぐよ。挿管は?』
「バイタルもしくはサチュレーションが落ちてきたら。
オペ室押さえておく、出来るだけ早く」
『任せなさい』
電話を切り、到着するヘリに備えていた看護師に指示する。
「今からへリで来る患者は近藤に回して。
ヘリ往復してもう1人急患来るから準備しておいて」
「はいっ」
まずは1回目のヘリが到着した。
そしてまたヘリは現場に戻り、新たな患者を乗せて戻って来る。
「ヘリまもなく戻って来ます!」
「君、行くよ」
「え?行くってどこにですか?」
「ヘリポート。
もう1人急患来るって言ったの聞いてなかった?」
ヘリポートで神崎の戻りを待つ。
ヘリから神崎と共にストレッチャーに乗った患者が運ばれて来た。