第4章 現実
Piiii……。
PHSに連絡が入る。
画面を確認するとICUと表示されている。
つまりこれはドクターコール。
私達が持っているPHSにはそれぞれ簡単な番号が割り振られていて、看護師の持つPHSでその番号を押すとすぐに繋がる仕組みになっている。
緊急時の時間短縮の為だ。
「ちょっとICU行って来る」
書きかけの書類をそのままにしてICUへ向かう。
ドクターコールはその名の通り医師を呼び出す為のもの。
呼び出すだけで、実際の状況は伝わって来ない。
「行ってらっしゃい」
笑顔で手を振る神崎。
*****
「どうかした?」
ICUへ入り看護師に尋ねる。
「霜月先生お疲れ様です。
昨晩の西山さんですが、先程意識戻りました」
「そう。分かった」
「おぉー、先生が診てくれたの?ありがとねぇー。
美人だねー、彼氏居るの?」
アルコールが残っているからなのか元からなのか、凄く面倒くさい。
聞かれたことだけ端的に答えるだけで良いのに。
「手を握ってみて」
患者の右手の上に自分の手を置き、確認を急ぐ。
相手が指示通りに出来るかどうかを確認するだけ。
脈拍やその他の数値は異常なかったから、あとは手足の麻痺の確認だけ。
「え、手繋ぐの?先生って大胆だね」
イライラする。
ギュッと握られる感触に、言葉に。
こちらが仕事だと言うのになぜ分からない。
「はい、じゃあ離して」
「えぇー、まだ繋いだばっかだよ?」
「良いから、さっさと離して」
まとわりつくこの感触が気持ち悪い。
吐き気がする。
渋々と言った様子で離した手をアルコールで念入りに拭く。
「バイタル、意識レベル問題なし。一般病棟へ転科の手続きしておいて。
ベッドが空き次第移って貰うから」
そう指示し足早にICUをあとにする。
あんな酔っ払い、2度と御免だ。
救命に運ばれて来る患者の多くはこういった酔っ払い患者が多い。
もちろんそれだけではないけど、酩酊して不注意でとか本当に勘弁して欲しい。
自分のことなんだから、飲酒の管理ぐらいしてよ。