第4章 現実
「……俺、やっぱりさっきの方のところへ行って来ます。
ちゃんと話せばきっと分かってくれます!」
立ち止まったまま宣言するフェロー。
話せば分かってくれる、か。
そんな甘い考えで一体何人の医者がこの世界を去って行ったか。
話して通じれば苦労はない。
「いちいち言わなくて良い、勝手にして。
私は別に君が何をしてようと興味がない」
「はいっ、行って来ます!」
大きく頷き、踵を返す。
私には関係ないことだから。
席へ戻り、残りの書類を片づけて行く。
内勤に比べれば量は少ないが、それでも少し離れるだけで書類は溜まる。
書類を進めていると机に頬杖をついた神崎が声を掛けて来た。
「なに、ケンカでもしたの?水原ちゃんと」
「神崎には関係ない」
わざわざ人に言う必要はない。
関係のないことだし、そもそも本当に気になっているようには見えない。
なんとなく聞いただけな雰囲気が漂っている。
「そういえば昨日は大変だったみたいだね、高エネルギー外傷」
聞いても無駄だと悟り話題を変える神崎。
公私の切り替えは誰よりも早くて上手い。
「運ばれて来た時には急変してたんでしょ?
もう目覚ましたの?」
「まだ。かなりの量のアルコールが入っている上に麻酔も効いてるからまだ掛かりそう」
「ねぇ神那ちゃん。瑠璃ちゃんやっぱりね……」
声のトーンが落ちる。
「分かってる。
薬は痛みを取っているだけ。
悪化してるのは本人や家族に言ってある」
「まだ若いのにね……なんかやるせないなぁ。
僕ら医者に出来ることなんて本当に限られてるんだよね」
「知らない」
「……いい加減前を向いたらどうなの?
過去のことを引きずるのは良くないよ?神那ちゃん」
「何度も言わせないで。神崎には関係ない」
「まぁ、それもそうだね」