第3章 救命の過酷さ
処置が終わると初療室には朝日が差し込んでいた。
疲れた身体に眩しい朝日は堪える。
「ひとまずICUに運んでおいて。
意識が戻って何も問題がなければすぐに転科。
病床の確認もよろしく」
「はい!確認しておきます!お疲れ様でした」
看護師に指示してからステーションへ戻りカルテを書き始める。
一時は深刻な状況だったけど、あの病状なら予後は問題ないだろう。
後遺症やその他の不調がなければすぐに転科の手続きに移れる。
「やっぱり救命って大変なんですね。
あんな時間に急患でしかもオペになるなんて……」
「救命に運ばれて来る患者が状態が良いことなんて殆どない」
机に伏せっているフェロー。
全く覇気のない顔。
そんな顔で居られたらこちらの士気まで下がる、目障りだ。
「今頃気づいたの?」
だから救命を希望する医師は極端に少ない。
ただでさえ医者という職業は休みが少なく仕事内容もハード。
その中でも救命は飛び抜けて急患・残業が多く、多忙を極める。
「はい。思っていたよりしんどいです……。
でも神那先生は平気そうですね。羨ましいです」
「もう慣れたことだから。
それを覚悟した上で救命医をしてる。
まずは体力つけたら?オペじゃ持たないよ」
深夜帯の急患なんていうのは、別に珍しいことじゃない。
比較的よくあることだ。しかもその大半は酔っ払い。
「そうなんですか……俺はもう眠くて眠くて」
眠そうにされるとこっちの気が散る。
これが辛いんだったらさっさと辞めれば良い。
内科医なんて救命の世界では大して役に立たないから。
「オペ室以外のところでのオペってよくあることなんですか?」
「時と場合によるけど、現場なら常に。
インプロビゼーションを身につけなければここに居る価値がない」
「いん……なんですか?それ」
「……即興という意味。
災害現場では機材が不足する、分かるでしょ?
そんな時には近くにあるもので代用し、即興で治療を行うこと。
災害医療、つまりフライトドクターには不可欠の技術」
「必須ですか……。
あ、それより救命の内科医って居ないんですか?
居たら話聞いてみたいんですけど」
「ここには居ないし必要ない。
別の病院には数は少ないけど存在する」
出来上がったカルテを読み返しながら返事をする。