第3章 救命の過酷さ
「SpO2は?」
【SpO2】
サチュレーション数値のこと。
【サチュレーション】
体内の酸素濃度という意味。
一般的な見方では100〜95=正常、95〜90=低め、90未満=酸素吸引や治療を受ける必要がある。
「酸素投与で100%です」
「分かった、受け入れる。そのまま搬送して」
「ありがとうございます」
そう言い、受話器を置く。
「急患来るから準備して」
「はい」
「は、はいっ。えっと確か高エネルギー外傷とは……」
「フェロー、何してるの、準備って言ったでしょ」
「す、すいません!」
初療室に患者を受け入れ、処置を施して行く。
初療室はその名前の通り、救命に運ばれて来た患者が1番初めに処置を受ける場所のこと。
もちろん怪我の状態によってはそのままオペ室に運ぶこともあるが、基本的にはこの初療室で具合を見てから運ぶことが多い。
*****
病院に到着した頃にはすでに急変し始めていた。
その上出血元が複雑なところだ。
少しでも時間が欲しい。
「オペ室押さえる時間勿体ないからここでやる、準備」
「分かりましたっ」
処置室内を駆け回る看護師。
「こ、ここでって⋯⋯大丈夫なんですか?道具とか⋯⋯」
「その場にあるもので代用する。
常に物が揃っているとは限らない。
現場ではそれは当たり前のこと。
長くなるから覚悟して」
会話をしながら手術着に着替える。
「麻酔大丈夫です」
息を吐き、心を落ち着けてから患者に向かう。
「メス」
全く眠れない、長い長い夜が幕を開けた。