第3章 救命の過酷さ
RRR……。
電話が鳴った。
PHSではない、私の机の後ろの壁についている方の電話。
大きく太いこの音は、すぐに気がつけるようにする為だ。
「はい、亜城西(アジサイ)救命救急センター」
正式名称は亜城(アジ)大学付属西部病院救命救急センター。
最初のアジと、サイとも読める西でアジサイ。
古くからその名称で呼ばれている。
「双葉救急です。患者の受け入れお願いします」
「詳細教えて」
それを聞かない限りは受け入れられない。
状態も聞かずに受け入れて、対応出来る医者が居なかったり、機材が足りなかったりしたら意味がないからだ。
現にそれで他の病院では死亡例が出ていて訴えられている事案もある。
助けたい気持ちは皆同じ。感情に任せた判断はしない。
この電話の声は無線機や部屋内に聞こえている。
すぐに情報を共有する為である。
「患者は西山宏さん52歳男性。
かなりの酩酊状態で階段から転落。
幸いすぐに通行人により通報されていますが、腹部を強く打っている模様です。
バイタル異常ありません、GCSは14です。
現在は容態がまだ安定していますが、高エネルギー外傷が疑われます」
【バイタル】
生命兆候のこと。
血圧、脈拍数、呼吸速度、体温をまとめて言う。
【GCS】
意識レベルのこと。
【高エネルギー外傷】
高度からの転落、加速した自動車事故などに多い。
大きな外傷はなく軽度に見えるが、内部臓器の損傷により急変することが多い。