第2章 外科的尊敬
「調子に乗らないで」
「はいはい。
もー、素直じゃないんだから」
素直さは外科医にとって必要ない。
それは時に患者を不安にさせてしまう場合がある。
「煩い。神崎、明日のヘリ担よろしく」
ヘリ専用無線機を手渡す。
「ん、分かってるよ。
神那ちゃんも今日の当直頑張ってね」
「言われなくても」
「水原ちゃんも頑張ってね。
神那ちゃんと同じスケジュールじゃ慣れるまではかなり大変だろうけど」
何せ1週間ほとんど休みがない。
例えあったとしても緊急のオペに呼び出される。
「はいっ。頑張ります」
「お疲れ様っす。
神崎先生、霜月先生」
藍色のユニホームに聴診器を首から掛けた医者が入って来た。
救命に身を置く医師のユニホームは藍色。
フライトドクターは何かと走ることが多いので、邪魔にならないように聴診器は首にかけずポケットに入れている。
「お疲れ」
「おー、お疲れ様。近藤くん」
「お疲れ様っす〜、えーっと……」
「あ、水原紫音です。
本日付けで勤務になりました、フェローです」
「ん、よろしくー」
形成外科の近藤。
腕はそこそこ、言葉は軽い。
明るい金髪に右耳にピアスを付けている。
正直言って自分の命は預けたくない人物。
なぜ救命に居るのか疑いたくなる程に土壇場に弱い。
マニュアル通りの考え方しか出来ない男。
「なんか分かんないことあっても俺に聞かないでね、俺も分かんないから」
「は、はい」
分からないなら調べて覚えれば良い。
それを怠るから、成長しないまま。
学ぶ気がないなら元の専門に戻れば良いのに。