第2章 外科的尊敬
ポケットに入れてある華奢な形の腕時計を確認する。
「そろそろ外してから30分経つ。今日はここまで」
「うん。またね?
神那先生、水原先生」
「また」
「またね、瑠璃ちゃん。お大事に」
点滴のチューブを繋いでから病室をあとにする。
*****
人の波を避けながら廊下を歩いていく。
この時間はやはり混みあっている。
「あの、瑠璃ちゃんってどこが悪いんですか?
見たところ元気そうですけど。
それに救命の病床で様子をみる程容態は悪くないように感じましたけど」
点滴はしてたけどそれ以外に気になるところはなかった。
顔色は少し悪かったけど、血の気がない程じゃない。
知的障害とか、言語障害もない。
わざわざ救命の一般病棟に居なくても、容態の著しい悪化はなさそうだ。
「……表面上はね。カルテ読んで、そうすれば分かる。
瑠璃が救命に居るのには理由がある。
私が理由もなしに救命で様子をみている訳ないでしょ、病床を圧迫するだけなんだから」
決して自分の口からは説明しない。
「わっと……す、すみません」
スタスタ歩く神那先生に小走りで着いて行くと、患者さんとぶつかりそうになる。
それぐらいフロアは混雑しているんだ。
ステーションに着き、それぞれの席に座る。
「2人共お疲れ〜。
あ、水原ちゃんの席は神那ちゃんの隣ね?右隅の方。
即席で設けたやつだからちょっと雑だけど」
「大丈夫です、ありがとうございます」
用意して貰えるだけ有難い。
「水原ちゃん。初日を半分終えたけど、どう?」
「覚えることが多くて大変ですが、頑張ります!」
「うんうん、その意気だよ。水原ちゃんは、頑張って長く続けてね」
「え?それってどういう……」
「ここだけの話、ここに研修に来るフェローは皆すぐ辞めちゃうんだよ」
神那の向かいにある自分の机に肘をつき、シャーペンを弄びながら呟く神崎。
「え、そうなんですか?」