第2章 外科的尊敬
「あ、そうだ。言い忘れてた。
あとで救命患者全員分のカルテ読んで頭に入れておいてね。
パソコンの共有ファイルに入ってるから」
その後もずっと立ったまま会話を進める。
「ぜ、全員分ですか?」
「もちろん。
救命に患者さんはいつ誰がどこで急変するか分からないからね。
誰でも速やかに対処出来るように全員分の病状を把握しておく必要があるの」
「あんまり聞きたくないんですけど、全員って……一体何人居るんです?」
救命病棟に居る患者さんが僅か数名……なんてことはないよな。
一体何人分覚えなきゃいけないんだ?
「んー?たった50人だよ」
「ごじゅ……!?
たったじゃないですよ、それ」
「何言ってるの。
救命に居るならそのぐらい出来なきゃやっていけないよ。
比べちゃ悪いと思うけど、神那ちゃんは他の病棟のことも把握してる。
もちろん全部って訳じゃないだろうけど、救命で処置して転科した患者さんのこととか。
カルテなんて見なくてもすぐに答えられる。
もしかすると投与してる薬とかも覚えてたりするかもね」
「す、凄いですね……」
「まぁね、神那ちゃんの記憶力は人間離れしてる部分もあるから。
それが普通だと思っちゃダメなんだけど50人ぐらいは覚えないとね。
いきなり覚えるのは難しいと思うから、アナログな方法だけど最初はノートにメモしておくのも良いかもね。
それで時間のある時に読み返して覚える。
それが1番早い方法なんじゃないかな」
「さ、参考になります……」
「神崎先生、今日神那先生は?来ないの?
オペ忙しい?さっきヘリ飛んでたもんね」
「今はICUの様子見に行ってる。
何もなければもうすぐ来ると思うよ」
「そっか。早く来ないかなぁ」
「楽しみなの?神那先生が来るのが」
「うん、いつも神那先生に勉強教えて貰ってるんだ」
「そうなんだ」
そんなこともするんだ、神那先生って。
なんだか凄く意外だ。
患者さんとは必要最低限しか話さないのかと思ってたけど。