第12章 実力社会
「…ぃ」
「何?」
小さ過ぎて聞こえなかった。
「現場が静かなことはほとんどない。
喋るなら声張って」
「ぉれ…やりますっ。
だから…指示ください。
お願いします、神那先生」
覚悟を決めた顔をしていた。
「本当に君に出来るの?
始めたら途中で止められないよ」
「大丈夫です」
その顔が見たかった。
「あなたはフェローを手伝って。
私は向こうの患者の処置に移る。
処置しながら指示するから。
君は落ち着いて、確かにやって。
ゆっくりでも良いから」
その目なら任せられる。
覚悟の宿った強い瞳なら。
「はいっ」
自分の方も手を動かしながら指示を出す。
「まず喉仏の下の輪状甲状靭帯を切開。
ここはゆっくりで良い、焦らずに」
「…出来ました」
「そこから挿管チューブを挿入。
それでひとまずは終わりだから」
【挿管チューブ】
呼吸が弱くなったり止まったりした時に確実に気道を確保する為に気管に挿れる管のこと。
「お、終わりました」
「バイタル戻って来ました!」
ほっ…と脱力している。