第12章 実力社会
「それが…」
言いにくそうに目を逸らす。
「何?早く言って。
時間が勿体ない」
「そ、挿管出来なかったんです…。
すみません…ごめんなさい。
やっぱり俺には無理です…。
…出来ません…」
自分の両肩を抱き、震えていた。
「病院に連絡して神崎か藤代に来て貰って。
現場フェローじゃ無理」
「は、はい」
看護師に指示を出し、先にフェローの患者の治療を始める。
「良い?
この患者は気道熱傷が主だけど顔面外傷もある。
これじゃ通常の気道確保が出来ないのは分かるよね?
そうした場合には輪状甲状靭帯切開をする。
セット持って来てあるのは知ってるでしょ?
現場で分からないことは全部聞いて、教えるから。
10秒迷えば1つの命が消える。
常にそれを頭に入れて行動して」
現場では見て盗むことは出来ないから教えるしか方法がない。
やっぱり連れて来るべきじゃなかった。
「神崎先生、藤代先生共に手が離せないそうですっ」
こんな時に…。
2人同時に1人で処置するのはほとんど不可能だ。