第12章 実力社会
『はい、こちら嵐山消防本部です。
患者は2名。
20代女性、気道熱傷。
同じく20代男性、熱傷ショックです。
名前、年齢の確認はまだ取れていません』
新しく分かったことはなし。
「分かりました、ありがとうございます」
そう言って通信を切った。
「どうしてお礼を言うの?」
「え?だって教えてくださったから…」
「それが仕事でしょ」
教えるのは当然。
当然のことをしてお礼を言われるものなのか。
「だとしてもです。
仕事だからだったとしても、ちゃんと教えてくれたんです。
人に何かをして貰ったらお礼を言うのが礼儀でしょう?」
礼儀…ね。
「まもなく着きます」
「分かった」
「はい」
礼儀なんて言葉、この歳になって言われるとは思わなかった。