第1章 神の手と称される者
「に、逃げたって……」
逃げたものは逃げた。それが事実だ。
オブラートに包んで言ってあげる必要はない。
「ドクターヘリではたった1つのミスが患者の術後を大きく左右する。
時間や現場にある機材は限られている。その状況で瀕死の患者を救う。
1つのミスが患者の死に繋がることだってある。
その重圧に耐えられる精神力、確かな腕を持った医者だけがドクターヘリに乗ることを許される」
なんの抑揚もつけずに告げる神那。
「そういうこと。
現に4人居る救命医の中で僕ら2人だけがフライトドクターなの」
それ以外は腕、主に精神力が足りていない。
青島もかつては救命医だった。
ドクターヘリ制度が導入されたほんの少しの間だけど。
「え、たった2人だけなんですか!?」
「そうだよ、だからヘリは日替わりで担当するの。
もちろん大災害の時は2人で出る。
これがまた重労働なんだよ、ヘリは平常時でも日に2回は飛ぶからね。
結構体力使うんだよ、これが」
フライトドクターは常に人手不足なのに、その仕事は過酷。
近年はテレビで取り上げられたり映画の題材にされたりすることも増え、フライトドクターに志願する人は増えた。
映画は都合良く作られている部分もあり、実際に研修に来てもすぐに辞めていく人が多い。
「嫌なら辞めれば良い。
私は別に1人でも問題ない」
「そんなこと言わないの!
嫌々じゃないから。
それにヘリだけが救命じゃないからね?水原ちゃん」
「え?あ、はい」