第11章 救命の世界に奇跡はない
「瑠璃のカルテ読んだんでしょ?
末期のガンでその上転移速度が速く、摘出してもまた新たに出来るだけ。
経済的な余裕もないから抗ガン剤を投与することも、手術を繰り返すことも出来ない。
だから薬で痛みだけを取っていた」
「この前は…元気そうで。
とてもそんな風には…」
「見えなかった?
それは表面上の話でしょ。
身体の内部は目視で完全に分かる程甘くない。
瑠璃も周りを心配させまいと隠してたみたいだから尚更ね。
最初に言ったよね?
救命の世界に奇跡はない、って。
あるんだったらこんなことにはならない。
尊い命が失われることは少ない、そういうことになる。
神の手が存在するんだったら腫瘍ぐらい手術で簡単に取り除けるんじゃない?
転移するよりも速く、正確に、負担を少なく」
「…」
涙を堪えるように俯いた。
「霊安室に運びますね」
「よろしく」
「はい」
ベッドごと運ばれて行く瑠璃に深く頭を下げ、見送る。
「俺、ちょっと頭を冷やして来ます…」
と、足早に病室を去る。
「救命の世界に奇跡なんてものは存在しない。
ましてや神の手なんて…」
低い声で苦々と呟き、病室をあとにした。