第11章 救命の世界に奇跡はない
ステーションへ戻り、瑠璃のカルテを整理する。
「あれ、水原ちゃんは?
一緒じゃないの?」
「一緒じゃない」
いつもいつも一緒に居るとは限らない。
「どこ行ったん?水原の奴」
「知らない」
私の知ったことじゃないし、知りたいとも思わない。
カルテに黒インクのボールペンを走らせながら答える。
「神那ちゃん、励ましに行かないの?」
「どうして?」
眉間にシワを寄せ、怪訝そうに神崎を見やる。
「そんな怖い顔しないでってば。
僕達外科医と比べて内科医って人の死に触れる機会が少ないから、最初は落ち込んじゃっても仕方ないよ」
「仕方ないじゃ済まされない。
医療関係者しか居なかったから良かったけど、あの場に家族が居たらどうなっていたか想像出来る?
医者が家族の前で取り乱すなんて言語道断。
あってはならないこと」
いくら辛くてもそれを隠さなくてはならない。