第8章 助かる、助からない
「有名だよね、アルフレッド・アドラーが残した名言。
僕も参考にしてるよ」
「せやな。
なぁ、災害現場で赤タグのホームレスと同じく赤タグの総理大臣が居ったら。
水原やったらどっちを選ぶん?」
「え、選ぶだなんて……」
「どっちなん?」
「どっちも助けます!」
「医者はお前1人、どっちから処置するか聞いてんねん」
真剣な表情で再度尋ねる。
「重要度を見ます。
それでより重傷の方から助けます」
自信がなさそうに目を背けて言った。
いかにも素人が考えそうなことだ。
「それじゃアカンねん」
「ダメだね」
「違う」
3人同時に答える。
「ど、どうしてですか?」
「同じ赤タグなら間違いなく総理大臣を選ぶ。
その都度重症度を診ている時間なんて現場にはない。
例えホームレスの方が重傷だったとしても。
命の重さは平等じゃない、それが事実であり現実」
昔より口数が増えたと思う神那ちゃん。
言い方がキツイのは変わらないけど。
言っていることは正しい。
「切り替えてくれない?
ダラダラされても迷惑だから」
そう言うとおもむろに席を立った。