第5章 誰も知らないあなたの仮面
「御堂さん?」
『チェ・グソン。トラブルだな。警察か?』
「お察しの通りです。フロアでドミネーターの信号が出てる。ダンスフロアに公安局の刑事が紛れ込んでますよ。」
「――慎也。」
綾は隅っこの方にいた狡噛の姿を見つければ、感情の篭らない声で男の名前を呟いた。
あっと言う間に大混乱に陥ったフロアを見ながら、綾はようやく槙島の方を向いた。
「そろそろ行きましょう。このままじゃ私達もまずいでしょ?」
「あぁ、そうだね。」
「ではお二人は裏口からどうぞ。俺はここを片付けてから行きます。」
チェ・グソンの言葉に頷けば、槙島は綾の手を引いてVIPルームを後にする。
「――聖護。先に行って。」
「綾?」
「すぐに後を追うから。」
「――無茶をしないように。」
槙島は綾の意図を理解すれば念だけ押して、彼女の手を離した。
あの日愛した生き物
「ホロスーツへの同時ハッキングだ!ホシボシが逃げるぞ!」
「くそ!ドミネーターだ!犯罪係数で被疑者を捜せ!」
征陸に続いて、狡噛もドミネーターを抜いてダンスフロアに躍り出る。
二人の刑事の出現、ホロスーツの異常。全員がタリスマンに。パニックに陥り、逃げ惑う客達。刑事達は思うように前に進むことすらできない。片っ端からドミネーターで犯罪係数を測定する。――誰が本物のタリスマンなんだ?
「――?!」
手当たり次第にドミネーターを向けていた狡噛は、一人の『タリスマン』に照準を定めたまま止まった。
その『タリスマン』はこの混乱の中、一人だけ真っ直ぐ立ったままこちらを見ていた。