第10章 楽園の果実
公安局によって封鎖された桜霜学園の美術室。
狡噛は自分の携帯情報端末から、唯一の手掛かりを再生している。
『――辱めを受けた命から解放されて、ラヴィニアは幸せだったと思うかい?』
『「娘が辱めを受けた後も生き長らえ、その姿を晒して悲しみを日々新たにさせてはなるまい」でしたっけ?槙島先生。』
狡噛はぼうっとそれを見ていた。
映像が途切れたのを見届けて、朱は席を立つ。
けれども狡噛はそのままその場に残れば、途切れた映像を更に早送りしていた。
「何か――、手掛かりは残ってないのか。」
映像が終わりかける頃、不意に白黒だった画面に再度『マキシマ』が現れた。
「――?!」
『あぁ、綾?ごめんね、連絡出来なくて。』
男の言葉に、狡噛は思わずデバイスに食いつくように見る。
「綾――、だと?!」
その愚かさに恋してた
「狡噛、ここにいたのか!」
目的の人物を見つけた宜野座が声を掛ければ、振り返った狡噛の表情に息を呑んだ。
「おい、どうした?」
ただならぬ狡噛の表情に、宜野座は問う。
狡噛は何も答えず、デバイスを宜野座に向けた。
『――次は綾も一緒に行くかい?』
聞こえた名前に、宜野座も顔を顰める。
「おい、狡噛!これは――。」
「綾だ。間違いない。アイツは『マキシマ』と一緒にいるんだな。」
狡噛の目の色が変わったのを、宜野座は見逃さなかった。
「本当に常守監視官――、紛らわしいな。綾がコイツと一緒にいたらどうするつもりだ?」
その問いに、狡噛は内ポケットから煙草を取り出せば火を点けた。
気分を落ち着かせるようにふぅっと煙を吐けば、思考回路がクリアになって行く。
「決まってるだろう。綾を取り戻す。」
「取り戻したところで綾は逃亡者の嫌疑が掛かる。ましてや『マキシマ』とこの事件に関わっていたとなると最悪の事態かも知れんぞ。」
「だから見逃しておけと?」
「そうは言っていない。だが――。」
宜野座が渋ったように言えば、狡噛は楽しそうに笑った。
「ギノらしくないな。綾は何かしらの情報を持っているはずだ。それと引き換えに身柄の安全を約束させる。――アイツは俺のものだ。」
ギラリと瞳の奥底で光った狂気を、宜野座は気付かない振りをした。