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レゾンデートル【PSYCHO-PASS】

第2章 犯罪係数


雨が降っていた。
その中を常守朱は慣れないハイヒールを履いて、走っていた。
確か彼女がいなくなった日もこんな雨だったように思う。
ドローンの警備を新品のIDを手にして潜り抜ける。
やがて見えたテントに、朱は勢い良く声を掛けた。




世界が死んだ日




「あの、こちらに監視官の宜野座さんは――。」
「俺だ。いきなり現場に呼びつけて悪かったな。」

公安局刑事課一係――、常守朱は今日からそこの監視官になった。

「本日付けで刑事課に配属となりました常守朱です。どうぞよろ――。」
「悪いが、刑事課の人手不足は深刻でね。新米扱いはしていられない。」
「は、はい。」

いきなり辛辣に告げられた言葉に、朱は思わずどもってしまう。
そんな朱を見ながら、宜野座は一人の女を思い浮かべていた。
自分と同期だったはずのあの女。
3年前のあの日を境に忽然と姿を消した女は、今目の前にいる朱の実の姉だった。

「――常守監視官。君のお姉さんは?」
「姉をご存知なんですか?」

朱は驚いたように目を丸くする。

「君のお姉さん――、常守綾は俺の同期だ。」
「そうでしたか。――今も音信不通です。生きているのか死んでいるのかさえも分かりません。」

朱が俯いて答えれば、宜野座はそうかと出来るだけ感情の篭らない声で返した。

「――君が公安局を志望したのは、やはり。」
「姉の件が全く無いとは言いません。でも――、私が選んで決めた事です。」

頼りないながらも、彼女の視線が真っ直ぐで宜野座は柄にもなく少しだけ安堵した。

「――対象の名前は大倉信夫。ヴァーチャル・スポーツ運営会社勤務。街頭スキャナで色相チェックにひっかかり、セキュリティドローンがセラピーを要求したが、拒絶して逃亡。スキャナの記録したサイコパスはフォレストグリーン。高い攻撃性と脅迫症状が予想される。」
「そんなに色相が濁るまで治療を受けなかったなんて――。」
「肉体強化アスリート用の薬物に手を出した可能性もある。何にせよ、犯罪係数を測定するまでもない潜在犯だ。」

宜野座の言葉に、朱は自分のデバイスに映った男の顔を見る。

「厄介なのは、大倉が逃げ込んだこのブロックだ。廃棄区画で中継器がないためドローンが進入出来ない。」

朱はその言葉に、目の前に広がる廃棄区画を見つめていた。
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