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レゾンデートル【PSYCHO-PASS】

第9章 あとは、沈黙。


「オルテガでも引用して返すかもね。――狡猾であざといところは、聖護と良い勝負なんじゃない?」
『それは楽しみだ。とにかく明日には帰るよ。それじゃ。』

途切れたデバイスを見つめながら、綾は唇を噛み締めた。
捨てたと思っていた感情は、どうやらまだ未練たっぷりに綾の中に残っているようだった。

「綾さん?」

黙ったまま立ち竦んでいる綾を不思議に思えば、チェ・グソンが声を掛ける。

「――雨ね。いつ止むのかしら。」
「さぁ?2、3日は降るのでは?」

その答えに綾は苦笑すれば、ようやく視線を部屋に戻す。
後ろを振り返れば、丁度槙島が戻って来た。





だからもう一回Continue




「聖護!」
「ただいま。ごめんね、退屈したかい?」

綾に近寄れば、宥めるように抱き寄せる。
槙島の匂いを吸い込めば、綾はどこか落ち着く自分に嘲笑を零した。

「綾?」
「なんでもない。どこに行ってたの?」
「桜霜学園に少し、ね。」
「桜霜学園?」

その名前に、綾は眉根を寄せる。
学園の名前は3年前、嫌と言う程聞いていた。
綾が何を嫌悪したか理解した槙島は、そっと本棚から一つの本を取り出した。

「知ってるかい?」
「これ、王陵牢一?」

槙島が手にしたのは、画集だった。
それはもうこの時代絶対に手に入らないであろう王陵牢一の画集。

「彼の娘が桜霜学園にいてね。少しは楽しめるかと思って。」

その言い方に彼の興味が削がれているのが分かって綾は苦笑する。

「お気に召さなかったの?」
「まぁね。やっぱり君や藤間を超える存在はなかなかいないらしい。」
「その名前を出さないで。虫唾が走る。」

綾は嫌悪感を露に言う。藤間幸三郎の名前は、彼女の前ではタブーだった。

「タモーラの台詞を覚えているかな?」
「『可愛い息子達からのご褒美を奪う事になる。あの子達の情欲は満たしてやらねば』だったかしら?」
「あぁ。僕の情欲はなかなか満たされないらしい。」
「聖護は欲張りだから難しいわね。」
「おやおや。酷いことだ。チェ・グソン。次のゲームを始めようか。」
「了解。『狡噛慎也』ですね?」

頷いた槙島を綾は感情の読めない表情で見つめていた。
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