第7章 狂王子の帰還
オーダーメイドのスーツをきっちりと身にまとった狡噛慎也『監視官』は、薄汚れた路地裏を駆けている。ドミネーターを手に、その表情は焦りと恐怖に満ちている。その耳に装着された通信機から、同僚――宜野座監視官の声。
『シェパード2、先行しすぎだ!今どこにいる?』
「ハウンド4が、佐々山が見付からない。どうなっている?アイツはどこに行った?」
部下の執行官――、佐々山が三日前から行方不明だ。狡噛とともに容疑者を追跡中、消えた。そして今日、突然この地点で彼が持っていたドミネーターの反応が出た。
『落ち着け、狡噛!状況が掴めない!一旦戻れ!』
「佐々山を連れ戻す!それに綾はどうした?」
『――落ち着いて聞け、狡噛。常守監視官は逃亡した。』
「――何を言っている?」
意味が分からなかった。宜野座が紡いでいる言葉が、狡噛にはまるで不可思議な言葉にしか聞こえなかった。逃亡した?誰が?綾が?そんな訳はない。
『信じたくないだろうが事実だ。常守監視官のドミネーターと警察手帳が捨ててあった。デバイスも引き千切ってあった。』
「そんなはずがないだろう!綾も佐々山と一緒で誰かに拉致されたんじゃないのか!」
叫んだ狡噛の目の前に、ふとオブジェのようなものが目に入る。
ホログラム・イルミネーションの裏に飾り付けられた祭壇。
その上に腕や足といった人体のパーツが、有り得ない順序で組み合わされた異形のオブジェが組み上げられている。中心に、切断された頭部。両目に、鏡のように磨きぬかれたコインが当てはめてある。
「――佐々山?」
落葬