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レゾンデートル【PSYCHO-PASS】

第6章 誰も知らないあなたの顔


考えても考えても分からなかった。それどころか自分の思考回路が可笑しくなって無限のループに嵌まってしまいそうだった。
何故あの日、彼女は――常守綾は自分の前から姿を消したのだろう。
クラブ・エグゾゼから戻る途中の車の中で、狡噛はずっと黙ったまま外を見ていた。
宜野座達と別行動をする事になった朱と狡噛は、二人きりの車内でお互いに沈黙を貫いていた。だが途中で耐え切れなくなったのは朱だった。

「あの。」
「なんだ。」
「さっきの『タリスマン』、誰だったんですか?狡噛さん、ドミネーター向けましたよね?」
「該当データは無かった。」

少しの沈黙の後で、狡噛はそう答える。
けれども朱は納得が行かないとばかりに噛み付いた。

「嘘!狡噛さん、あの時『綾』って!お姉ちゃんの名前、呼んだじゃない!」
「空耳だろ。」

それ以上は話す気がないとばかりに、狡噛は腕を組んだまま目を閉じて頭を窓ガラスへと預けた。窓ガラスの冷たい感触が、少しだけ思考回路を冷静にさせる。
あの日。全ては佐々山が殺されたあの日だ。
あれから全てが狂ってしまったように思える。本当はそれ以上前から何もかもが狂い始めていたのかも知れない。
それでも自分と綾が出会った事まで遡って間違いだったと認める事はしたくなかった。
だから、夢を見たかった。





たったひとつの傷に僕はなりたかったのさ





公安局の包囲網から逃れたのを確認して、綾はアバターのホロコスを脱いだ。

「ふぅ。」

ため息混じりに息を吐けば、丁度車が横付けされた。

「綾。帰るよ。」

中から声を掛けて来たのは、3年前から一緒にいる槙島聖護と言う男。
綾は先程直視した狡噛の顔を振り払うように頭を振れば、槙島の隣に座った。

「綾さん。公安局にお知り合いでも?」

運転席にいたチェ・グソンの問いに、綾は自嘲気味に笑う。

「何故?」
「ただの興味本位です。VIPルームの片付けしてる時にダンスフロアで綾さんが公安の刑事と何か話してるように見えたので。」

チェ・グソンの説明を聞きながら、槙島は横の綾に手を伸ばせばそっと髪を撫でた。

「元・職場だよね。常守監視官?」

皮肉のように聞こえて、綾は否定も肯定もしなかった。
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