第1章 12月18日(土曜日)
顔を引っ張られて立ち上がった烏養さんが怪訝そうに私を見下ろす。
「なんだよ、てかおまえ手、冷たいぞ」
体温が低い私。
体温が高い烏養さん。
『おまえ、すげぇ身体冷たいよな』
セックスの後、必ず後ろから抱きこまれる。
温かい毛布にくるまっているみたいで、いつも安心する。
そんな何気ない言葉やしぐさを疑ったことなかった……けど……
「ねえ、烏養さんって私のこと、好き?」
こんなセリフ言いたくない。
「バレーと私……どっちが大事?」
大嫌い、こんなセリフ。
視聴者から飽きられるバカな彼女みたい。
でも、言わずにいわれない。
烏養さんが好きだから、訊かずにいられない。
「……嫌いじゃなきゃ、つきあわねぇだろ、普通」
ずるい言い方。
「嫌いじゃない」は「好き」とイコールじゃない。
「……私のこと、ウザいって思ってるでしょ、今……」
自分で言っててイタい。
イタい女だ、私。
手のひらの中の烏養さんの顔がこわばったのがわかる。
「……っ、俺は、」
「ちーっす!」
ふわりと外の冷気が入り込んでくる。
「っ!」
慌てて烏養さんの頬から手を離す。
「腹減ったー」
「コーチ、肉まん下さい」
バレー部のジャージを着た人たちがぞろぞろ入ってくる。
「あれ、おまえ何してんの?」
その中に、孝支もいた。
「なんでもない、ちょっと用事があったから」
入れ違いに外へ出る。
寒い。
日が落ちると、この辺は一気に寒くなる。
温かかった店内から放り出されて、余計に寒く感じる。
「待ってろ、後で送ってってやるから」
そんな言葉を期待してた……
すごくかっこ悪い、私。
私を一番に考えてよ。
そう思うのが既に子供?
オトナな烏養さんの気持ちが、全然わからない。
好き……その気持ちだけじゃ、無理なのかな……