第9章 揺れる心
紫音先輩の家は、縦長の3階建ての家だった。
紫音先輩が玄関のチャイムを鳴らすと、綺麗な女性が出てきた。
紫音先輩と同じ、白に近い金髪に灰色の瞳。
「あら紫音、学校に行ったんじゃないの?」
「後輩が怪我してたから拾ってきた。」
拾ってきた、という言い方が引っ掛かったが、ある意味紫音先輩らしいと言うか…。
女性は私を見てニッコリと笑った。
「大丈夫?さぁ、中に入って。」
「…お邪魔します。」
家の中は必要最低限の物しか置かれてなく、殺風景だった。
紫音先輩は私をそっとソファーに寝かせた。
「今、手当てする物持ってくるね。」
紫音先輩がリビングから出て行き、女性と二人きりになる。
女性はかなり若く見えるが、紫音先輩の母親だろうか…。
「あの…紫音先輩のお母様ですか?」
「私?私はこの家に住む妖精よ。」
「は…?」
あまりにも現実離れした発言だが、女性は至って真面目な顔でそう言った。
そこに紫音先輩が救急箱を持って戻ってきた。
「妖精さん。あとは俺に任せて。庭で蝶が待ってるよ。」
「あ、そうだったわ。私ったら…蝶々さん達を待たせるなんて…。」
そう言って女性は慌てた様子で庭に向かった。