第2章 出会いの春
翌日。
午前9時、少し早いが出かける準備をして部屋を出ると、作業着姿の池田さんがコンビニの袋を持って階段を上がってきた。
「あ、池田さん。おはようございます。」
「おー、明智さん。おはよう。」
池田さんは眠たそうに大きな欠伸をした。
昨日、池田さんが「夜勤前で寝てて…。」と言っていたのを思い出す。
「もしかして、今お仕事帰りですか?」
「そうそう。俺24時間稼働してる工場で働いててさ、夜勤もあるんだ。」
「そうなんですね。お疲れ様です。」
「ありがとう。明智さんはこれからお出かけ?」
「はい、ちょっと駅の方へ…。」
ふと、池田さんの持っているコンビニの袋の中身が見えた。
カップ麺とおにぎり。
「池田さん、それご飯ですか?」
「ん?そうだよー。」
「いつもそれなんですか?」
「だいたいそうだねー。飯作ってくれる彼女もいないからさ!」
池田さんは冗談混じりにそう言って笑った。
毎日カップ麺とおにぎり…絶対に栄養が片寄るだろう。
独身の男性とはこういうものなのだろうか…。
「たまには野菜とかも食べて下さいね?」
そう言うと、池田さんは目を丸くさせた。
「…優しいんだね、明智さん。」
「あ、いやそんな…すみません。お節介でしたね。」
「ううん、俺の体のことなんて気にかけてくれる人いないからすげー嬉しいよ。ありがとう!」
眩しいくらいの彼の笑顔に、つられて私も笑った。