第5章 徹の過去
時が止まったような感覚。
徹の色素の薄い綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「シュリー、いるー?直人だよー。」
それは、聞き慣れた気の抜けた様な声。
「直人だ…ちょっと出てくるね。」
立ち上がった私を、徹が後ろから抱きしめた。
「…行っちゃダメ。」
「え、でも…。」
「今は俺だけを見てろよ。」
甘く、低い声で囁かれ、体が動かない。
徹は私を力強く抱きしめた。
「シュリ、このまま聞いて。」
「なに…?」
「俺、お前のことが好き。」
「え…ええ!?」
驚きのあまり大きな声を出してしまった。
徹が苦笑いしながら私の口を手で覆った。
「しー、池田に聞こえちゃうだろ。」
「ご、ごめん…え、ていうか、え?」
予想外過ぎてパニック寸前の私を見て、徹が眉間にシワを寄せる。
「そんなに驚くことか?」
「だって徹さっきの子は?ていうかなんで私?」
「さっきのは…忘れろ。」
「忘れろって…。」
「とにかく、俺はお前が好きなんだよ。」
私は徹の腕から逃れ、距離を置く。
「ちょっと待って。頭の中整理するから…。」
「整理するも何も、至ってシンプルなことじゃねえか。俺はお前が好きなんだよ。」
「そんな何回も言わないで、解ったから!」
私は何回か深呼吸をして、心を落ち着かせた。