第5章 徹の過去
俺は、あの馬鹿な父親とは違う。
女に振り回されるのではなく、逆に振り回してやるのだ。
そうする事で、心に溜まった鬱憤が少しだけ晴れた。
そんな事を繰り返し、1年が経った頃。
15歳の俺に突き付けられた現実。
母親が、浮気相手の男と蒸発したのだ。
いつかこんな日が来るんじゃないかと心の何処かで思っていたが、あまりにも身勝手な母親に俺は憤りを感じた。
父親の前で散々母親のことを悪く言ったが、父親は全く母親を責めなかった。
「お前のことは俺が最後まで責任を持って育てる。だから、母さんのことは許してやってくれ。」
何処まで馬鹿でお人好しな人間なんだと呆れた。
この男みたいにはならない。絶対に。そう思った。
高校2年生の秋、俺は大学に進学する事を決めた。
心理学部を選んだ理由は、なんとなく興味を抱いたからだ。
そして、地元を離れてこのアパートに引っ越してきた。
街を歩けば女に声をかけられるのが日常茶飯事になっていた俺は、度々女を部屋に連れ込んだ。
しかし、シュリが引っ越してきて歯車が狂い始めた。
シュリの第一印象は"地味な女"。
しかし、接していく内に段々と興味が湧き、そしていつの間にか好きになっていた。
お節介なくらい世話焼きで、生真面目で、優しい。
母親から愛情を受けなかった俺にとって、シュリという存在はとても居心地がよかった。
しかし、シュリが好きになったのはよりによって池田だった。
俺は池田が嫌いだった。
あのヘラヘラとした笑顔が、あの馬鹿な父親と似ているから。