第5章 徹の過去
俺の両親が結婚したのは、母親が20歳、父親が35歳の時だった。
これは後々知った事だが、当時父親は祖父から受け継いだ不動産会社の社長で、母親は財産目的で父親と結婚した。
1年後に俺が生まれた。
父親は喜んだが、母親にとって俺は邪魔だったらしい。
俺が物心ついた頃から、母親は家を空ける事が多くなった。
出かける時は派手に着飾り、その身に纏っている物全て、父親が買った物だった。
父親も、仕事が忙しくて家を空ける事が多かった。
父親が不在で、母親が出かけようとすると、俺は寂しくて母親に"行かないで"と泣きついた。
その時母親は決まってこう言った。
「ママはね、これから本当に好きな人に会いに行くの。」
俺は問いかける。
「ママの本当に好きな人って誰?パパと僕じゃないの?」
母親は真っ赤な口紅を塗った唇で微笑んでこう言った。
「ママはね、パパと徹のことは嫌いなの。ママはパパの持ってるお金が好きで結婚したのよ。」
子どもながらにショックだった。
たった一人の母親に面と向かってはっきりと「嫌い。」と言われるのは。
そんな中で育った俺は、12歳の時に父親に話した。
「あの女はずっと前から浮気してるし、親父の金目当てで結婚したんだよ。離婚しろよ、親父。」
俺がそう言うと、父親は悲しげに笑った。
「全部知ってるよ。それでも父さんは母さんが好きなんだ。だから、いいんだ。」
馬鹿な男だと思った。
この頃から母親は頻繁に借金を作り、父親は何も言わずにそれを返し続けた。
14歳の時、俺は初めて女を抱いた。
相手は4歳年上のキャバ嬢だった。
当時俺は年上の先輩とつるんでいて、その先輩に紹介された女だった。
母親と同じ、真っ赤な口紅を塗って。
違ったのは、俺が貢ぐのではなく女が貢いでくること。
別に特に欲しい物など無かったが、適当にあれが欲しい、これが欲しいと言うと、女はすぐに買ってきた。