第21章 すれ違う心
「シュリ、その指輪羽山君から貰ったの?」
紫音先輩が私の左手を見てそう言った。
「あ、はい。婚約指輪だ、って。」
「二人、結婚する予定なの?」
「…私が白血病だって分かった日に、徹に言われたんです。5年生存率が50%くらいっていう事実に落ち込んでいた私に、それなら5年後に結婚しようって。そのために生きろ、って。」
「二人があの日言ってた約束って、もしかしてそれのこと?」
七瀬が言う"あの日言ってた約束"とは、私が長野に帰る日にみんなが見送りに来てくれた時のことだろう。
「うん、そうだよ。」
少し照れくさいが、笑って頷いた。
「それなら羽山君、何がなんでも目を覚ますだろうね。自分からそう言っといて破るなんて彼の性格的にあり得ないでしょ。」
「そうだよ、紫音の言う通りだよ!」
二人が一生懸命私を励ましてくれているのが伝わってきた。
「ありがとう。」
徹、私も頑張るから、徹も頑張って。
二人で、幸せになろう。
その後、私は辛い治療に耐えながら徹が目を覚ますのを待った。
季節は巡り、冬になった。
12月に入っても、徹は目を覚まさなかった。
12月10日、日付が変わったのをスマホで確認した。
「徹、誕生日おめでとう。」
徹に貰った指輪に語りかける。
「いつになったら目、覚ますの?私、ずっと待ってるんだよ。」
徹の顔が見たい。
声が、聞きたい。
また、名前を呼んでほしい。
「…徹、愛してるよ。」
私は指輪にキスをした。